2020年に舟山瑛美が立ち上げたウィメンズブランドFETICO。ジェンダーレスやユニセックスの潮流がファッション業界にも広がる中、「The Figure : Feminine(その姿、女性的)」をコンセプトに掲げ、あえて身体のラインを強調するスタイルで感度の高い層から注目を集めてきた。確固たる信念と美学から生まれる服はフェニミンなムードを醸しながら、静かで知的、それでいて内側からポジティブなエネルギーが滲み出る。ユニークで新しい女性像を提案し続けるFETICOが、3月11日(水)〜22日(日)の期間、渋谷PARCOで初となるポップアップを開催。最新コレクションの発表を終えたいま、ブランドの現在地や唯一無二のクリエイションの源泉、今回のポップアップに込めた思い、そして渋谷PARCOにまつわる思い出まで語ってもらった。
- Photo
- Haruto Inomata
- Text
- Ayako Takahashi
- Edit
- RCKT/Rocket Company*
—— 2月9日、FETICOは、楽天ファッションウィークに先駆け、2026-27年秋冬コレクションをランウェイショー形式で発表しました。今季のテーマは「The Contours of Grace(気品の輪郭)」でしたが、その中で新しく挑戦したこと、あるいはこれまでと違う判断をしたことはありましたか?
今回のコレクションは、1920〜30年代に自らの意思で人生を切り拓いた、先駆的な女性たちのスタイルや精神性から着想を得ました。ミューズとなったのは3人の女性。画家のヴァネッサ・ベル、モデルから戦場カメラマンへと転身したリー・ミラー、そして、女性を自由へと導いたガブリエル・シャネルです。ブランドをスタートして5年が経ち、自分自身も年齢と経験を重ねる中で、より成熟した女性像を描きたいと思うようになりました。FETICOらしさは保ちながら、よりリアルで大人の女性にも選ばれる服へと進化させる。それが今回チャレンジしたことです。

アトリエに並ぶムードボード。サンプルの写真やリファレンスなど、さまざまな女性像が集められている。
—— FETICOの服は、非日常を思わせる“特別さ”があるように思います。今回のコレクションでは、より多くの女性たちの日常に寄り添う服へとアップデートされたということですか?
そうですね。これまでは、商品単体としての完成度に重きを置いてきた部分がありましたが、今回はそれに加え、「着る」という行為そのものや、実際に着る人の存在、どう着こなされるのかまでを深く考えながら制作しました。とはいえ、日常に寄り添うだけではなく、着ることで生まれる高揚感は大切にしています。もともと、誰が着ても同じように見える服にはあまり興味がなくて、着る人の身体によって印象が変わるものや、女性の曲線美を生かした立体的な服が好きなんです。着る人自身が心地よく、自信を持てる装いであること。異性の視線に応えるためではなく、あくまでも女性自身が主体的に選ぶ服でありたいと思っています。
—— 最新コレクションのショーを終えたいま、あらためてFETICOというブランドがどんなフェーズにあると感じていますか?
最近は国内での認知が少しずつ広がり、“FETICOらしさ”というイメージを持っていただけるようにもなってきて、ブランドがようやく確立してきたと実感しています。その流れもあって、次のフェーズとして海外へのアプローチを強化しているところです。パリではPR会社を通じてサンプルを展開し、グループ展への参加を重ねながら、現地でどのように受け止められるのかを探っています。日本のお客様を大切にしながらも、海外では求められるスタイルや女性像が少し異なると感じていて、海外チームとのミーティングを重ねながら、より広い視点でFETICOの女性像を模索している段階ですね。
FETICO 2026秋冬コレクション。ランウェイ経験のあるモデルだけでなく、さまざまな職業や年齢、身長の女性をキャスティングし、よりリアルな女性像を追求した。Image by FETICO
—— その女性像は、国内と海外で具体的にどう違うと感じていますか?
ひと口に海外といっても国によって感覚は大きく異なります。例えばアメリカ、特にLAではFETICOが得意とするランジェリールックが好意的に受け取られる一方、パリではもう少しコンサバティブなスタイルが好まれ、露出のあるアイテムはオフィスで取り入れにくいという声もあります。国の違いは少なからずありますが、それ以上に感じているのは、個人の価値観。自分の身体をどう見せたいのか、それをファッションとしてどう楽しみたいのか。それらを自ら選び取っているような自立した女性は、国籍を問わず存在していると感じています。
—— FETICOの服は、内面に潜む芯の強さや気品、しなやかさなど、女性が持つ美しさを引き出すのがとても上手なブランドだと感じます。クリエイティブを続ける中で、「美しいけれど違う」と感じて手放したものはありますか?
見た目には美しくても、出所がはっきりしないものは手放します。例えば素材でも、どこの誰がどうつくったのかが分からないものには、どうしても信頼を置ききれないんです。自分で料理をするときに、身体にやさしい食材を選びたいという感覚に近いかもしれません。また、構造的に美しく見える選択が必ずしも着心地の良さにつながるとは限らなくて、芯地の使い方ひとつでも悩むことがあります。ハンガーに掛けたときのシルエットが抜群に美しくても、着たときに違和感があるのならそれは正解とはいえない。その場合は、美しさと着心地のバランスを探り、最適解を見つけるようにしています。
—— 女性の造形美を強調する古典的なスタイルと現代的な感覚の融合。そうした独自のクリエイションは「唯一無二」と評価されていますが、服づくりのアイデアはどのように生まれているのでしょうか?
アイデアは常に探しています。コレクションを制作するときはムードボードを組み立てながら進めるのですが、その都度、思い描くミューズや惹かれる女性像は変化していて、それがコレクションの色として表れていきます。大きく変わるというより、積み重ねの延長線にあり、好きな領域が広がりながら深まっている印象ですね。昔から、どこか湿度を感じさせるような女性像に惹かれることが多く、はつらつとした明るいタイプというよりは、少し影や奥行きを感じさせるような人。その曖昧さや陰影の中にある魅力が、クリエイションのヒントになっているのかもしれません。
—— FETICOはブレない女性像がありながら、常に新鮮な服を私たちに届けてくれます。多忙な日々の中で、クリエイターとしての自分とプライベートの自分を切り替え、創作とあえて距離を置く時間はありますか?
日常の中では仕事と生活が完全につながっていて、なかなか切り離せないところがあります。だからこそ、旅に出ることはひとつのリセット法。パソコンを持って行っても一度も開かずに過ごせた、というように、意識的に環境を変えることが大事なときもあります。長い休みは年に一度取れるか取れないかくらいなので、急に思い立って1泊や2泊で出かけることが多いですね。あとはジムやピラティスに通う時間も欠かせません。身体ひとつでトレーニングに向き合う時間は、自然と仕事から少し離れられる瞬間でもあります。
—— さすがです。FETICOの服を着るために、やはりボディメイクは欠かせませんよね。
全然そんなことはないです。ピラティスは、もちろん自分がやっていて気持ちいいというのもあるのですが、先生の身体を見に行っているところもあって(笑)。肉体美というか、女性の身体は本当に美しいなと感じるんです。バレリーナの身体もすごく華奢ですが、全身がしっかり鍛えられているじゃないですか。天性の美しさだけではなく、努力によって手に入れたものにより価値を感じます。運動だけではなくて、食べるものや日々の過ごし方など、自分を労ることができている人は美しいですよね。
—— ありのままの自分を受け入れ、愛し、人生を謳歌する。服づくりを通して生き方そのものを表現しているFETICOの思想が垣間見られるエピソードですね。FETICOというブランドで、まだ表現していないテーマや挑戦してみたいことはありますか?
たくさんあります。毎シーズンではないのですが、ショーピースの中にはクチュール的なアプローチで制作するものもあり、時間や労力はかかるものの、完成したときの高揚感や感動は非常に大きいですね。そうした表現には、時間や資金が許す限り、これからも挑戦していきたい。また、服づくりは本当に奥が深いなと思っていて、友人のテーラーの仕事を見ていると、プレタポルテとは異なる技術や思想に刺激を受けます。そうした分野から学べることがあれば、協業の可能性も探ってみたいですね。あとは、日本各地の工場をもっと訪ね、ものづくりの背景を自分の目で知りたいという思いもあります。
—— ますます忙しくなりそうですね。そんな中、3月11日(水)から渋谷PARCOでFETICOのポップアップが開催されます。この場所で展開することに、どんな意味を感じていますか?
渋谷で単独のポップアップを行うのは今回が初めての試み。これまでもセレクトショップ内での展開や、新宿伊勢丹では定期的にポップアップを行ってきましたが、ショップインショップではなく、ブランドの世界観をひとつの空間として表現できることは、新しい意味をもたらしてくれると感じています。渋谷PARCOは、FETICOを支持してくださる方々はもちろん、さまざまなブランドを回遊しながら出会いが生まれる場所だと思うので、ブランドを知ってはいるけれど実際に触れたことがなかったという人とも出会えるのではないかと期待しています。また、インバウンドや観光で東京を訪れた方々の目にも触れる、新しい接点になれば嬉しいですね。
—— 渋谷という街や渋谷PARCOについて、個人的な思い出や印象はありますか?
高校が恵比寿だったこともあり、渋谷にはよく通っていました。スペイン坂を上がって渋谷PARCOに立ち寄り、そのまま原宿まで歩くのが定番のコース。濃い思い出があるわけではないですが、日常の中に自然と存在していた場所ですね。当時はパート1から3まであった渋谷PARCOの中でも、モード寄りで少し尖ったショップが揃っていたパート2がお気に入りでした。ミュージアムや映画館にも足を運び、カルチャーにも積極的に触れていましたね。渋谷はファッション好きが集まる場所であり、若者であった自分にとって居心地のいい街でした。
—— 今回のポップアップはブランドの世界観を伝える場になると聞いています。通常の“ものを売る”ショップとは違い、“体験を与える”場としてどんな設計を考えていますか?
スペースが限られていることもあり、コレクションを一堂に並べるのではなく、ブランドの定番として展開しているボディスーツやインナー、デニムとコーディネートしやすいアイテムを中心に構成する予定です。小物については、春夏の新作からアーカイブまで幅広く揃え、これまでFETICOを着たことがない方でも取り入れてみたいと思える入口になればと考えています。また、ショーの舞台裏を記録した写真集も展開予定で、FETICOが描く女性像や独自の空気感が伝わればと思っています。写真集は、オザワキヨエさんによる撮り下ろしで、紙の質感やサイズ感にもこだわったアートブックといえる一冊。ファッションだけでなく、アートやヘアメイクに興味のある方にも楽しんでもらえたら嬉しいです。

左:曲線が特徴の特注のミラー。右:写真家・オザワキヨエさんが独自の視点で捉えた、2025秋冬コレクションのバックステージやルックをおさめた一冊。本ポップアップでも販売される。
—— ブランドの世界観を伝えるうえで、ポップアップの内装などにこだわりはありますか?
現在企画中なのですが、装いやファッションについて、ゆっくり向き合えるような空間にしたいと思っていて、クローゼットのようなエッセンスを取り入れられたらと考えています。ベーシックなアイテムほど、心地よいと感じられるものを丁寧に選びたいという思いがあり、今回置くアイテムもオリジナルや別注の素材が多く、日本で生産されているものを揃えています。小物の展開を充実させたのも、バッグや靴を変えるだけでスタイル全体の印象が大きく変わると感じているから。自分のワードローブを思い浮かべながら、いろいろ試してほしいですね。

今回のポップアップでは、ワードローブにプラスできるシューズや小物を中心に展開予定。
—— 最後に、今回のポップアップを訪れる方に、どんなふうに楽しんでもらえたら嬉しいですか?
FETICOが描く女性像は、わりと独特なものだと感じているので、このポップアップの空間を通して、その世界観を少しでも感じ取っていただけたらと思います。また先ほどお話したように、渋谷PARCOはさまざまな人が回遊し、気軽に立ち寄れる場所。写真集を立ち読みするだけでもいいので、構えずにふらっと遊びに来てもらえたら嬉しいですね。
Information
FETICO POP UP STORE
会場
1F POP UP SPACE「ARCADE」
開催期間
2026年3月11日(水)〜22日(日)
詳細はこちら
https://shibuya-parco.work/event/detail/?id=8505


舟山 瑛美(ふなやま えみ)
「FETICO」デザイナー。高校卒業後に渡英し、帰国後にエスモードジャポン東京校で学ぶ。コレクションブランドで経験を積んだのち、2020年、自身のブランド「FETICO」を立ち上げる。女性の身体の造形美を追求し、独自の視点で再構築したモードなスタイルが人気。
Instagram(@emi_funayama)(@fetico_official)







